UX白書テキスト版 ユーザエクスペリエンス(UX)白書 ユーザエクスペリエンスの概念を明確にする 2010/9/15-18 Dagstuhl Seminar on Demarcating User Experience の成果 2011/2/11 翻訳: hcdvalue mail : hcdvalueinfo@gmail.com site : http://site.hcdvalue.org/ twitter : @hcdvalue 著者: ヴィルピ・ロト(Virpi Roto) [ノキア・リサーチ・センター、現:ヘルシンキ大学(Nokia Research Center, now the University of Helsinki) フィンランド(Finland) virpi.roto@gmail.com ] エフィー・ロー(Effie Law) [レスター大学 University of Leicester イギリス(UK) elaw@mcs.le.ac.uk ] アルノルド・フェルメーレ(Arnold Vermeeren) [デルフト工科大学(Delft University of Technology) オランダ(The Netherlands) a.p.o.s.vermeeren@tudelft.nl ] イェティ・ホーンハウト(Jettie Hoonhout) [フィリップス・リサーチ(Philips Research) オランダ(The Netherlands) jettie.hoonhout@philips.com ] 貢献者: ナイジェル・ベヴァン(Nigel Bevan) [プロフェッショナル・ユーザビリティ・サービス(Professional Usability Services) イギリス(UK)] ヤン・ブロム(Jan Blom) [ノキア・リサーチ・センター(Nokia Research Center) スイス(Switzerland)] マーク・ブライス(Mark Blythe) [ノーサンブリア大学(University of Northumbria) イギリス(UK)] エリザベス・ブーイー(Elizabeth Buie) [ルミナンズ・コンサルティング(Luminanze Consulting) アメリカ(USA)] ジョージ・クリストウ(Georgios Christou) [ヨーロッパ大学・キプロス校(European University Cyprus) キプロス(Cyprus)] ギルバート・コックトン(Gilbert Cockton) [ノーサンブリア大学(University of Northumbria) イギリス(UK)] ザラ・ディーフェンバッハ(Sarah Diefenbach) フォルクヴァング大学(Folkwang University) ドイツ(Germany)] デイビッド・ギルモア(David Gilmore) [ロジテック(Logitech) アメリカ(USA)] ジャン・ハートマン(Jan Hartmann) [デテコン・インターナショナル(Detecon International) イギリス(UK)] マルク・ハッセンツァール(Marc Hassenzahl) [フォルクヴァング大学(Folkwang University) ドイツ(Germany)] クリスティーナ・ホーク(Kristina Höök) [ストックホルム大学(University of Stockholm) スウェーデン(Sweden)] キャスパー・ホーンベック(Kasper Hornbaek) [コペンハーゲン大学(University of Copenhagen) デンマーク(Denmark)] エヴァンゲロス・カラパノス(Evangelos Karapanos) [アイントホーフェン工科大学(Eindhoven University of Technology) オランダ(The Netherlands)] ジョフィッシュ・ケイ(Jofish Kaye) [ノキア・リサーチ・センター(Nokia Research Center) アメリカ(USA)] トゥルッカ・ケイノネン(Turkka Keinonen) [アールト大学(Aalto University) フィンランド(Finland)] カイル・キルボーン(Kyle Kilbourn) [南デンマーク大学(University of Southern Denmark) デンマーク(Denmark)] ヨーケ・コルト(Joke Kort) [TNOインフォメーション&コミュニケーション・テクノロジー(TNO Information & Communication Technology) オランダ(The Netherlands)] マレク・コワルキェビッチ(Marek Kowalkiewicz) [エス・エー・ピー(SAP) オーストラリア(Australia)] 黒須正明(Masaaki Kurosu) [放送大学(Open University of Japan) 日本(Japan)] カリ・クーチ(Kari Kuutti) [オウル大学(University of Oulu) フィンランド(Finland)] はじめに ユーザエクスペリエンス(UX)という用語は広く使われていますが、多くの異なる意味で理解されています。UXは多くの専門分野にわたるという特徴を持つため、いくつかのUXの定義とUXに関する視点が存在しており、それらは異なる観点からUXという概念にアプローチしています。例えば、UXに対する既存の定義は、心理学的なものからビジネス視点まで、また、品質中心的なものから価値中心的なものまで、幅広く存在します。そのため、一つの定義で全ての視点を言い表すことはできません。UXに関する定義を集めたリストは、www.allaboutux.org/ux-definitionsで入手することができます。 ユーザエクスペリエンスという用語は、 ユーザビリティ、ユーザインターフェース、インタラクションエクスペリエンス、インタラクションデザイン、顧客経験、ウェブサイトアピール、感情、"ワオ 効果"、一般的経験の同義語として、また、これらの全てや多くの概念を包括した用語として、よく用いられます。 UXを明確に定義することによって、以下のような場面で役立ちます。 ・UXの基礎を教えるとき ・UXに馴染みのない人々へ、UXの意味を伝えるとき ・UX研究者と実務者の間にある、UXに対する互いに異なる視点・態度を明確にするとき ・研究分野としてのUXを推進するとき ・商業、産業、政府組織において実践的なUX活動を根付かせるとき UX白書は、UXの専門家たちの議論から得られた内容を元としてUXの核となる概念を説明した上で、UXに対する異なる視点について明確化しています。本書は、第一線のUX研究者、UX実務者グループの協力により作成されたもので、www.allaboutux.org/uxwhitepaperで自由にご利用いただけます。 免責事項: 本書は『Demarcating User Experience Seminar』に招待された専門家たちの議論の結果であり、彼らの専門的な知見や判断に基づいています。私たちの見解の中に、UXに関する既存の文献からの影響を受けている部分があることは認めますが、残念ながらその包括的な文献リストを提供することはできません。 1.序論 UXという分野は、システムの利用(あるいはシステムとの出会い)を通じて人々が持つ経験について研究すること、その経験のためにデザインすること、そしてその経験を評価することを扱っています。この利用は、UXに影響を与えたり寄与したりする、ある特定の文脈(context)において行われるものです。 UXは「現象(phenomenon)として」「研究分野(a field of study)として」「実践(practice)として」などの異なった視点から捉えることができます。これらの違いを理解するには、例えば医療の分野であれば、「健康は現象」であり「医学は研究分野」であり「医師の仕事は実務」である、と置き換えれば良いでしょう。それぞれの視点からのUXの詳細は以下のとおりです。 現象としてのUX: ・何がUXで、何がUXでないか表すこと ・タイプの異なるUXを識別すること ・UXを取り巻く状況を説明すること、UXの因果関係を明らかにすること 研究分野としてのUX: ・現象を研究すること。例えば、どのように経験が形づくられるのか、もしくは、人は何を経験し、どんな経験を期待し、これまでに何を経験しているのか、など ・特定のUXを可能にするシステムをデザインするための手段を見出すこと ・UXデザインとその評価のための手法を調査、開発すること 実践としてのUX: ・UXを思い描くこと。例えばデザイン実践の一部として ・UXを表現すること。例えば望ましいUXを実証したり他の人に伝えたりするためのプロトタイプを作成すること ・UXを評価すること ・特定のUXを可能にするようなデザインを実現すること 本書では、私たちは主に「現象としてのUX」と「実践としてのUX」に焦点を当てています。 2. 現象としてのUX 経験という概念は、人間としての存在に伴っています。一般的に経験では、個人的に出会ったり、受け止めたり、体感するすべてのものを対象としています。しかし、UXは「一般的な意味における経験」とは異なり、システム[2]と出会うこと[1]に由来する経験を明確に示しています。 現象としてのUXには以下の特徴があります。 ・UXは一般的な概念としての経験の一部です。UXはシステムを通じた経験であるため、より限定的です ・UXはシステムとの出会いを含みます。積極的利用、個人的利用だけでなく、例えば他者がシステムを利用するのを観察するなど、より受動的にシステムと関わることも含みます ・UXはある個人に固有のものです ・UXは過去の経験とそれに基づく期待に影響されます ・UXは社会的、文化的な文脈に根ざしています それでは、UXではないものとはどういったものでしょうか? ・UXは人間に焦点を当てており、技術主導のものではありません ・UXはあるシステムを単独で利用する個人だけに関するものではありません ・UXは認知行動分析やユーザーを「人間情報処理系(human information processor)」として観察することではありません ・ユーザーが感じるユーザビリティ[3]は UX全体に影響を与える典型的な側面ではありますが、ユーザビリティとUXは同義ではありません ・UXデザインは、インターフェースデザインより広範囲なものです ・UXはブランド経験/消費者経験/顧客経験とお互いに影響を与え合うものの、それらの概念と同義ではありません 「ユーザエクスペリエンス」という言葉は「経験」よりも適用範囲が狭いですが、ユーザエクスペリエンスに関するいくつかの概念を包括した用語です。ここで意図している視点を説明するには、さらに具体的な用語が役立つでしょう。そこで、私たちは人々がUXについて言及する場合によく取り上げる3つの視点について説明します。ここで留意すべきなのは、これらの用語は、一般的なエクスペリエンスデザインの分野で使用される用語と似ているということです。 経験する(Experiencing) 「経験する」という動詞は、システムと出会う時の知覚・認知の流れとその解釈、また、結果として生じる感情の変化を示します。人々はそれぞれ異なった方法でシステムとの出会いを経験します。この考え方は、システムと出会う経験に関する個人的および動的な性質を重視するものです。 UXの実践において「経験する」ことに着眼するデザイナーは、ユーザーの感情に影響を与える特定のインタラクションイベント(例:ゲーム開発におけるゴールの得点表示や、恐ろしいキャラクターの外見)に注意を払います。「経験する」ことの評価は、ひとりの人間がシステムとの出会いをどのように経験するのか、その時間変化に焦点を当てる(例:インタラクションにおけるどの要素がどの感情を誘発するかを明らかにするために、さまざまな瞬間の感情を測定する)ことができるでしょう。 ある経験(A user experience) 「ある経験」という名詞は、始まりと終わりがあるシステムとの出会いを示します。人がシステムと出会う時間をどのように経験したのか、という全体的な意味を表します。この考え方は、経験の動的な性質よりも、経験の結果と記憶を重視するものです。「ある経験」は、個人あるいは集団とシステムとの出会いを示しているため、個人的な性質を特に強調するわけではありません。 このような視点についての典型的な例は、UXデザインの主眼を活動や仕事の特定期間(例: ウェブサイトを閲覧する)、ゲームの物語性(例: 不安が高まり、そしてハッピーエンドになる)、またはシステムを利用した結果(例: ダンスゲームでダンスを習得する)に置く場合などにみられます。「ある経験」の評価は、特定の活動やシステムの利用経験に関する全体的な測定尺度を提供する手法に焦点を当てることができるでしょう(例: 回顧的アンケート法)。 共経験(Co-experience) 「共経験」「共有経験(shared experience)」および「集団経験(group experience)」は、ある状況の中に位置づけられ社会的に構成されたものと解釈されるような経験を示します。ここでは、システムとの出会いだけでなく、構成している人間やある状況を一緒に経験する人間も重視しています。これらの用語が経験における特定のシステムの役割を考慮せずに使われる場合は、「ユーザエクスペリエンス」についての議論として意味をなさず、一般的な意味合いでの「経験」と呼ぶ方が適切となるでしょう。 社会構造における経験では、集団の行動と/または態度が重要です。社会構造における経験を重視するデザインは、例えば、一人の人間のためのインタラクションと結果を定めたフローに焦点を当てるのではなく、活動したり対話したりする多様な人々のための一般的な制約とアフォーダンスを提供する基盤システムをもたらします。「共経験」の評価では、人々の間の出会いの回数や性質といった、間接的な「集団経験」の測定尺度を含めることができるでしょう。 -------------------------------------- [1] 利用しながら、相互作用をしながら、または受動的に向き合いながら。 [2]「システム」は、個人がユーザインターフェースを通して対話する、独立したまたは組み合わされた形態の製品・サービス・および人工物を指す。 [3]仕事の達成時間、クリック数やエラー数といった客観的なユーザビリティの測定尺度は、個人の感じる好悪の判断を反映しないため、UXの尺度として適さない。 3. ユーザエクスペリエンスの期間 ユーザーが実際に利用した経験は、ユーザエクスペリエンスの中心となるものです。ただし、それだけではUXに関連する全ての要素をカバーしているとは言えません。 人々は最初の出会いを果たす以前に、過去の経験や関連するテクノロジー、ブランド、広告、プレゼンテーション、デモンストレーション、他人の意見などによって形成される利用前の期待(expectation)から、間接的な経験を得ることができます。同様に、利用した後に行う振り返り(reflection)、またはその人の中の評価の変化を経て、間接的な経験は拡張されていきます。 これと、「経験する」と「ある経験」の間にある差とは、UXに焦点を当てるときに適切な期間の差なのかという疑問が生じます。極端に言えば、誰かが非常に短い一瞬に何を経験するか、例えば利用中の直感的な反応などに焦点を当てることも可能でしょう。またその一方で、何ヶ月かのもしくはそれ以上におよぶ体験の中で、利用中のエピソードや利用していない時間を通して形成される、累積された経験に焦点を当てることも可能でしょう。その結果、UXは、インタラクション中に感じる感情の特定の変化(一時的UX)、ある特定の利用エピソードに関する評価(エピソード的UX)、特定のシステムをしばらくの期間利用した後の見方(累積的UX)で表されます。予期的UXとは、ユーザーにとっての初めての利用よりも前の期間、あるいは上述の3つのUXの期間よりも以前のことだと言えます。なぜなら、人はインタラクション中のある特定の瞬間、利用エピソード、システムの利用経験後の生活を想像するかも知れないからです。 UXについて議論したり話したりする時には、対象とする期間を明確にすることが重要で、それらは一時的UX、エピソード的UX、累積的UXの3種類に分けられます。一時的UXに着目すると、あるユーザインターフェースに対するユーザーの感情的な応答について情報を得ることができます。それよりも長い期間に着目するならば、一時的UX群が累積的UXに与える影響が明らかになるでしょう。例えば、利用中に起こった強い否定的な反応の重要性は、成功体験の後にはとても小さくなっていて、否定的だった反応は最終的には違ったものとして記憶されるかもしれません。UXデザインとその評価を行う際に必要となる条件は、一時的UXに着目する場合と、エピソード的UXやさらに長い期間のUXに着目する場合とでは異なってきます。 もっと長い期間で考えると、UXはライフサイクルや旅のようなものとして構造化することもできます。例えば、初めての出会いから、何度か使ってみた時のエピソードを経て、使っていた時のことを思い返すという構造です。これまでに使ってきた経験はこれからの使い方に影響をおよぼします。例えば、何かを使ってみた一回の経験を思い返し、それを語ることによって、今後の使い方が予測されるでしょう。さまざまな経験がいろいろな順番で互いに幾重にも重なり合い、利用前に想像していた状態から利用後にあれこれ思い返す状態まで、UXに決まった流れはないのです。 (図1. 利用と非利用の期間からなる時の経過につれたUX) (図2. ユーザエクスペリエンスの期間、期間に関するユーザエクスペリエンスの種類を説明するための用語、異なる期間で生じる内在的なプロセス) 4. ユーザエクスペリエンスに影響する要素 人がシステムと対話することによって生じるUXには、幅広くさまざまな要素(factor)が影響しています。それらは3つの主なカテゴリに分類されます。ユーザーとシステムを取り巻く文脈、ユーザーの状態、システムの特性です。 1.文脈:文脈が変われば、システムが変わらなくともUXは変化します。UXの領域における文脈は、社会的な文脈(例:他の人と一緒に使うこと)、物理的な文脈(例:ある製品を机の上で使うのか、でこぼこ道を走るバスの中で使うのか)、仕事の文脈(システムを取り巻く仕事で、他にも注意する必要があるもの)、技術や情報の文脈(例:ネットワークサービスや他の製品との連係など)が集まって組み合わされたものと言えます。 2.ユーザー: 人がシステムを体験することが動的であるため、UXも動的なものになります。例えば、ある製品を使おうとするモチベーション、雰囲気、そのときの心理的状態・身体的状態、期待などに影響されます。 3.システム: システムの特性に対するユーザーの知覚・認識は自然とUXに影響をおよぼします。UXに重要なことは、ブランドイメージや製造業者のイメージ(例:持続可能性(sustainability)や格好良さ)と同様に、考え抜かれたシステムにデザインされた特性(例:機能性、審美性、デザインされたインタラクティブな振る舞い、反応性)や、ユーザーが加えたりシステムを変更したり、あるいは使った結果として得られる特性(例:携帯電話に保存してある子どもの写真、機器を長い間利用したあとの傷や使い古した感じ)もです。 UXの要素を記述することによってUXそれ自体を表現することはできません。しかし、UXの要素とそれらの主要なカテゴリは、ユーザーが特定のUXを感じる状況を説明する時に使えます。UXの要素は、ある特定の経験に隠された理由の説明に役立つのです。 5.実践としてのUX ユーザエクスペリエンスデザイン(UXD)は、人間中心設計の原則(HCD[4]:ISO13407、1999年:ISO9241-210に改訂)に由来します。人間中心設計は下記のように要約できます。 ・デザインのプロセスにおいて、関心事の中心をユーザーとすること ・ターゲットユーザー層にとって重要なデザイン的側面は何か特定すること ・プロセスの繰り返しによりデザインを開発していくこと、そこにユーザーの参加を促すこと ・デザインを評価するために、ユーザー固有の要素に関するエビデンスを収集すること UXDは、原則上はHCDと違いはありませんが、より成熟した形でのHCDの実践としていくつかの重要な側面を付け加えています。付加されるのは、ささいなものではありません。従来のHCDの視点と区別されるUXデザインの主要な要素としては、UXの要素、UXの業務で使用される手法・ツール・基準、そしてUXに関するアイデアの表現方法、さらには組織におけるUXをどう位置づけるのかということがあります。 UXの要素 前章で議論したように、UXに影響を与える要素は、従来のHCDの範疇から比べてかなり広範囲で多様です。従来のユーザビリティは主にパフォーマンスとスムーズなインタラクションに関連していましたが、UXは感情や解釈、意味にも関連します。さらに、社会的側面、美的側面といったUXの要素は、従来の考え方とはかなり異なる性質のものと捉えられることでしょう。そのため、どのUXの要素を考慮する必要があるのかをプロジェクト着手時に判断することは、UXの実践者にとって大きな課題となります。しかし、デザインチームはいずれの場合でも、典型的な利用状況におけるデザインの適切さにほんのわずかな影響を与えるUX要素しか扱うことができないのが普通だということに留意しなくてはなりません。そのため、UXデザインプロセスの早い段階で、入手可能な情報の意味を理解することがデザインチームにとって大きな課題になります。 ・明確な根拠が存在していて既知である要素や、特定の場合においてのみUXの動因となると思われる要素を、検討から外すこと ・デザインの成功に不可欠で、かつ現状のデザインチームの状況で十分に解決できる要素を特定すること。そして、独自の運用状況を与えること ・さらに調査が必要そうな要素を特定することと、もし調査が必要ならそれを実施できる体制を作ること 手法(method)、ツール(tool)、基準(criteria) デザインチームは、チームが満たさなければならないさまざまな要求のトレードオフに直面することになります。UXが持つ「触れることができない」という性質は、UXデザインの結果を予想することを困難にします。デザインチームが直接的または明示的な方法でいくつかの問題(たとえば、社会的問題、感情的問題、美的問題)へ対処するのは、不可能ではないにしても、とても難しいことかもしれません。デザインチームはそういった問題を専門家の判断に頼りながらも、直感的に処理しなくてはなりません。 デザインチームは、UXの要素を取り扱うためにデザインプロセスの全体を通して利用可能かつ実現可能な手法・ツール・基準を明確にする必要があります。これには、初期ターゲットの設定やデザイン提案における反復的な開発の管理、デザイン作業の途中あるいはその後の評価作業のサポートなども含まれます。また、多くのケースで、従来の手法で処理することのできる伝統的なユーザビリティの問題を伴っている可能性があります。 UXに関して、一般的に受け入れられている全体的な測定尺度というものは存在しないのですが、UXはさまざまな方法で評価することができます。例えば、引き起こされた感情がポジティブなのかネガティブなのか単純に評価するためのツールがあります。また、信頼感、存在感、満足感、楽しみなどの特定のUXを評価するために開発された特別な手法や手段(instrument)があります。評価の手法や手段の選択は、評価の目的(例えば、総括的(summative)なのか形成的(formative)なのか)や、時間や経済的制約といった他の(しばしば実際的な)要素だけでなく、システムが対象としている経験の質にも依存しています。 コンセプトおよびデザインの表現 デザイン自体が実現される前に、そこから得られる経験がどのようなものかについて人々に伝える方法を探すことは大きな課題です。そのためにはデザインチームが以下のようなシステムの表現を創作することは特に重要となります。 ・デザインの方向性に対するフィードバックを集めるために、想定ユーザーまたは彼らの代理となるユーザーの参加を促進すること ・人々の感情的な反応と、その理由を把握すること ・コンセプトおよびデザインについて、同僚や経営幹部のようなデザインの成功に興味を持つ人々とコミュニケーションをとること ・デザインプロセスの全体を通して、デザインチームのビジョンを維持すること 組織におけるUX活動の位置づけ UXの活動は組織のビジネスと戦略における重要なパートとして徐々に認識、確立されてきています。言い換えれば、これはUXD実践者にとって、組織に関する新しい議論と、組織の境界線を曖昧にするという結果をもたらしています。この議論は、「顧客経験の問題」に対する責任と、組織内の異なる階層へUXを適応させる方法に関連しています。UXの活動は「部署的な本拠地」を持つ必要があります。分野を横断できる活動として、組織の鍵となる開発プロセスへより良く統合される必要があります。また、UXの実践者には明確な責任範囲と、相補的な役割やコンピタンスを伴って効率的に働ける関係の構築が必要となり、そうなることでUXの活動は組織のデザイン/開発の取り組み全体における価値のあるパートとして受け入れられていきます。また、長期的には、下記の点に関する戦略的な影響力を確保するためにはUXの位置づけに重点を置くべきです。 ・新しい価値提案の見地からのビジネス指針 ・開発されるデザインの選択と、組織のビジネス目標に対するデザインの貢献 ・組織の運営方法を導くようなプロセスの開発 -------------------------------------- [4] UCD(ユーザー中心設計)と呼ばれることもあります。 貢献者(日本語訳): ■翻訳者 安藤幸央 ( Yukio Andoh ) hcdvalue 伊藤英明 ( Hideaki Itoh ) hcdvalue 佐々木将之 ( Masayuki Sasaki ) hcdvalue 澤村正樹 ( Masaki Sawamura ) hcdvalue 白澤洋一 ( Yoichi Shirasawa ) hcdvalue 谷真裕 ( Mayu Tani ) hcdvalue 羽山祥樹 ( Yoshiki Hayama ) hcdvalue 馬場沙織 ( Saori Baba ) hcdvalue 古田一義 ( Kazuyoshi Furuta ) hcdvalue 吉岡典子 ( Noriko Yoshioka ) hcdvalue 渡辺洋人 ( Hiroto Watanabe ) hcdvalue 株式会社 U’eyes Design エクスペリエントロジ研究所 (U’eyes Design Inc. Experientology Laboratory) ■レビュアー 安藤幸央 ( Yukio Andoh ) hcdvalue 伊藤英明 ( Hideaki Itoh ) hcdvalue 澤村正樹 ( Masaki Sawamura ) hcdvalue 羽山祥樹 ( Yoshiki Hayama ) hcdvalue 福津則昭 ( Noriaki Fukutsu ) hcdvalue 吉岡典子 ( Noriko Yoshioka ) hcdvalue ■校正者 伊藤英明 ( Hideaki Itoh ) hcdvalue 松崎希 ( Nozomi Matsuzaki ) hcdvalue 佐々木将之 ( Masayuki Sasaki ) hcdvalue 吉岡典子 ( Noriko Yoshioka ) hcdvalue 渡辺洋人 ( Hiroto Watanabe ) hcdvalue ■アドバイザー 安藤昌也 ( Masaya Ando ) hcdvalue ■会場提供 株式会社ミクシィ ( mixi, Inc. ) ■校閲者 特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構 理事会 ( Board of HCD-Net: Human Centered Design Organization ) 日本語版「UX白書」をお読みの皆様へ 2011年12月8日 第二版 本書は、原文である「User Experience White Paper」をhcdvalue有志が日本語訳・校正し、人間中心設計推進機構(HCD-net)の校閲を経て、日本語公式訳として公開するものです。 本書の電子版(PDF)は下記サイトから入手可能です。 http://site.hcdvalue.org/docs 本書は、原文にできるだけ忠実に翻訳するよう努めておりますが、完全性、正確性を保証するものではありません。翻訳主体であるhcdvalue は、本書に記載されている情報より生じる損失または損害に対して、いかなる人物あるいは団体にも責任を負うものではありません。 内容を正しく理解する必要のある場合は、原文をお読み下さい。原文は下記サイトから入手できます。 http://www.allaboutux.org/uxwhitepaper ( User Experience White Paper ) 本書は、クリエイティブ・コモンズ【表示-非営利-継承(CC BY-NC-SA )】ライセンスの下で提供されております。原文である「User Experience White Paper」が上記ライセンスを適用しており、改変版である日本語版は原文のライセンスを継承する必要があるためです。 本書はご自由に利用・シェアしていただくことが可能ですが、上記クリエイティブ・コモンズ・ライセンスへの配慮をお願いいたします。 ライセンスの詳細は下記サイトをご確認ください。 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/3.0/deed.ja ご意見・ご感想などございましたら下記までご連絡いただけますと幸いです。 hcdvalue(「現場で使えるHCD(人間中心設計)の実践」をコンセプトとしたコミュニティ) mail : hcdvalueinfo@gmail.com twitter : @hcdvalue